キリン「氷結」のCMが非公開になった理由と各社の反応
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2016年8月2日に公開となった、TRIGGER制作のキリン「氷結」のウェブCMが、8月10日に非公開となった事に対し、その理由はアルコール薬物問題全国市民協会(ASK)を始めとする複数の団体による指摘によるものであることがわかりました。
氷結 × TRIGGERアニメCMが根拠のない理由で非公開にされた件について - Togetterまとめ
氷結のCMが「根拠の無い理由でCMを公開中止にされた」ということになっているのですが、実際のところなぜ公開中止になったのかという経緯などが全く無視され、個人の見解で意見されているようでした。
そしてその賛同者を募っているようです。
キャンペーン · キリンビール: 氷結 × TRIGGERアニメCMを再び公開させましょう!! · Change.org
この件についてどの関係者にも確認を取らず、見切り発車のようで色々と動いているのはちょっと頂けないし、折角なのでCMを公開中止にした経緯でも聞いてみようかと思ったので、キリンビール、ASKに質問をしたので、その質問と回答についての話です。
キリンの見解
キリンへの質問とその回答
昨日キリンへ以下のような質問をしました。
- キリンはどの程度この企画に参画されていたのか
- 本件はスポンサーであるキリンがCM公開の了承を行ったのか
- ASKの申し入れを受け入れた理由
- 今後の対応方針 (このまま立ち消えとなるのか)
それについてキリンからは以下の通りご回答をいただきました。
要約するとこんな感じです。
- キリンは酒類メーカとして製作準備段階から企画に参画し、検討をしていた
- そのため、スポンサーであるキリンがCM公開はスポンサーとして承認したと考えてよい
- ASKからは「未成年飲酒助長の懸念がある」と指摘を受け、更なる検討の上動画配信を中止した
- 今後の再配信の予定はないが、今後は適正飲酒に配慮した魅力的なコンテンツを企画していきたい
動画は今後も公開されなさそうです
スポンサーであるキリンからの回答の通り、再配信を行う予定はないとのことです。もしかしたら先に記載したChange.orgの嘆願により表現方法を変えて公開し直すということは可能性としてはあり得るかと思いますが、一度取り消したものに対して改めて公開し直すというのはなかなか考えづらいです。
このプロジェクトに対してスポンサーとして慎重に企画の検討を行っていたこともそうですし、利益などよりも企業としてコンプライアンスを遵守したような形のように見えました。キリンという企業として正しい処置をしたのではないかと考えられます。
こういう「一時的に大きくなってしまった声」に対し、企業として真摯な対応をしたのではないでしょうか。
アルコール薬物問題全国市民協会(ASK)からの要望書とメディア規制
そもそもASKからの要望書にはキリンへ向けて出されたわけではなく、国税庁酒税課に送られたものです。私のところに頂いた回答には「ASKより電話を受け」とあるので、起因となったFACEBOOKのつぶやきには一部間違いがありそうです。
で、ASKからの要望書に記載されている点としては、「この動画の公開をやめろ」ということではなく、お酒に関するウェブCMはテレビのCMの基準に合わせてほしいというものであり、アニメの表現を規制するというようには感じにくいです。
この CM が掲載された YouTube には、「未成年飲酒禁止されてるのに未成年が好きそうな内容でCM作るのはどうかと思うんだけど・・・」という視聴者のコメントがついていました
(中略)
「ウェブCM は年齢認証ができるので、不特定多数 を対象としたテレビ CMとは異 なる。この内 容 でテレビCMをやるつもりはない 」 「登場人物が25歳以上という自主基準はテレビCMに限定されている。ウェブCMには適用しないというのが業界の判断。そのため20歳以上の設定にした」との見解でした。
(中略)
同基準には、「本基準の不断の見直しを行なうなど社会的な要請への更なる対応を期する必要がある」と記されています。ウェブ CM は、かねてより検討課題になっていたはずです。今回の経験をもとに、業界全体で、ウェブ CM の基準強化を図るよう強く望みます。
この自主規制には以下のように25歳未満の者を広告のモデルに使用しないという自主規制があるのですが、これはあくまでテレビの自主規制によるもので、ウェブCMには適用されてはいないようです。
また広告の配信についても提供番組や時間帯による規制は掛けているのですが、これもテレビ、ラジオのみでウェブCMには適用外のようです。
テレビ及びラジオのスポンサーは、視聴者の70%以上が成人であるという企画のもとに制作されたことが確認できた提供番組において、酒類の広告を行うよう配慮する。
(中略)
テレビ広告において、25歳未満の者を広告のモデルに使用しない。また、25歳以上であっても、25歳未満に見えるような表現は行わない。
ここ昨今はインターネットで情報を収集する若い人たちが増えていることもあり、ウェブ広告もテレビやラジオなどと同様に規制ルールを設けてほしいというのがASKの意見のようです。
規制の方法をどのように敷くのかは各方面へ議論することは必要かと思いますが、規制することについては否定しません。ルールを敷いた上でそれに基づいた広告が配信されるのであれば問題ないかと思っています。
ASKへの質問とその回答(2016.1.19追記分)
一方でASKへも以下のような質問をさせていただきました。ASKはメールでの問い合わせは基本受け付けられないとのことでしたので、電話にてお話をさせていただきました。(ご担当者様、急なお電話へのご対応ありがとうございました)
質問の内容は以下の5点です。
- 今回の指摘が「未成年飲酒を示唆するものだと判断した」明確な理由
- 「アニメだから規制した」という視点について
- 非公開を避けられる方法はあったのか
- この言い分は「行き過ぎた指摘」ではなかったか
- 自主規制の検討において、なぜ「ウェブ上の影響」が考慮なされなかったのか
この質問に対し、ASKから頂いた回答は以下の通りでした。
■ 指摘をした明確な理由
- ASKとしては、あくまでテレビCMの自主規制があるのに、ウェブ上ではそれが遵守されていなかった(21歳のキャラクターが使われていた)ので指摘した
- 年齢的な観点だけでなく、仕事中の飲酒を匂わせる表現もよくなかったと指摘した
- もちろん「見た目の視点も加味されるべき」だが、今回はその点は全く指摘の範疇外としている
- 「アニメだから」という理由では一切ないとのこと
■ ASKがキリンに行ったこと
- ASKは非公開の申し入れをしたわけではなく、あくまで本件の指摘をしただけ
- キリン側が自主的な判断で非公開へ踏み切った
■ 自主規制の検討について
- 自主規制の検討については、まずは影響力の大きいテレビ、ラジオからで、ウェブは次回以降の検討とした(とのこと)
- その後、今回の件があったので、国税庁酒税課にウェブでも同様の自主規制をかけるべきと申し入れをした
ASKとしては、ウェブ上の広告動画もテレビなどと同様の影響があると感じ、今回の指摘をしたとのことでした。その明確な理由はあくまでテレビCMなどで使われている自主規制がウェブ上の動画においても然るべきと判断したからです。
そのためテレビCMのように自主規制に沿った内容でウェブCMが作られていれば、今回のような指摘もなかったのではと感じています。
アニメの年齢云々については、見た目の視点も加味されているとのことですが、極端に若く見える人を25歳以上としてCMに出してほしくないということでした。定性的で人による判断が違ってくる部分ではあるので、アニメの表現についての線引の際はよく考えてほしいとは言いました。
また、今回お話をさせて頂く上で、未成年飲酒を避けるよう働きかけるのであれば、若年層に影響力の高いウェブにおいての対応は検討に入れてほしかったですとはお伝えしておきました。
CMが非公開になった理由とキリンの対応
「アニメだから」という理由
このウェブCMが非公開になった理由について、「アニメだから」という指摘はASKからはなく、ただ「未成年飲酒を助長する恐れがあるから」と言っていました。ASKがアニメの表現を規制しているとは言い難く、繰り返しにはなりますが「未成年飲酒」の観点を懸念しての指摘をしているだけです。
ASKよ、アニメーターの苦労も知らないでクレーマーになりやがって...今に見てろよ
— ot_inc (萌える日本語化屋) (@ot_inc) 2017年1月16日
そのため、このような短絡的な言い分をした上で、逆に正当な理由のない公開キャンペーンを開くことに頭を痛くしています。「またアニメアイコンか」と思われても仕方ない事案だよなぁとも思っており、ひとりのアニメ好きとして大変残念に感じています。
キリンのコンプライアンスの視点(2016.1.18追記分)
上記の自主規制は2016年7月1日に改正されたばかりのもので、その1か月後にこのCMがウェブ上で配信されたとのこと。規制の改正が行われたばかりのタイミングだったということもあり、ASKの目に留まったと考えやすいです。(なお、この自主規制を検討している「飲酒に関する連絡協議会」にはキリンが所属している「ビール酒造組合」も入っています)
上記に「業界の判断」としてウェブCMには本自主規制は適用されないだろうと考えCM公開に至ったと考えられるのですが、一方で今回のASKのような意見が来ることを予測できなかったのは少し脇が甘かったと言えます。
この件で、例えば25歳以上のキャラクターをうまく起用していて、未成年助長につながらないような表現であればCM非公開は避けられた、というのであれば、確かにアニメCMを作ったTRIGGERも悔しい思いをしたと言っていいのかもしれません。
総括として
このCMをめぐる議論については酒を取り扱うCMとして適切かどうかが根幹にあることを忘れてはいけないです。議論として何が本当の問題なのかを正しく認識することの重要さを感じた件のように感じました。
このCMが見れなくなったことはアニメ好きとしては少し悲しいと感じています。「表現の仕方」によっては非公開につながる動きにはならなかった可能性がありますから。
ただし、指摘後の対応としてキリンが企業として取った措置、ASKが非営利団体として行った指摘に関する点については間違ったことはしていないと思っています。
とは言え、ウェブの影響度は大きく、今後はウェブ広告を企業は生かしていきたいはずです。そのためにきっちりとした制度づくりをして、今回のようなことが起きないことを祈りたいというのが私の所感です。