たかみめも

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安室透は100億の男になれるのか ~名探偵コナン ゼロの執行人の興行収入より~

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映画「名探偵コナン ゼロの執行人」の興行収入が72億円を突破し、前作の「から紅の恋歌」の興行収入をあっさり超えてしまいました。

※6月1日追記:先週末時点で75億円を突破、週末興行収入でもV7を突破しましたね。この勢いはどこまで続くのでしょうかね……。

 

安室透を100億の男にしたいとのファンの方々のもと、今までにないスピードで興行収入をたたき出している本作が興行収入100億を達成するのか、そしてここ最近の興行収入の伸びのよさを見せている「名探偵コナン」シリーズの推移の理由について少し考えてみようと思ったわけです。例になく内容に関する点は完全に無視した上で、取りえる情報を集めて考えてみた、というのがこの記事の趣旨です。

 

現時点での興行収入と今後の予測(2018.5.23時点)

直近3作品における興行収入の推移

5月23日現在、累計動員数が約510万人、興行収入は約72億円で、名探偵コナンシリーズ史上最高収入である「から紅の恋歌」をあっさりと超えましたね。

 

 

で、ここまでの週ごとの動員数と興行収入をグラフ化したものがこちらです。比較のために「から紅の恋歌」、「純黒の悪夢」とも比較したものとします。ソースはBox Office Mojoから引用し、興行収入の計算はドル→円を一律110円で計算した形とします。*1 また、「ゼロの執行人」の6周目は上記ニュースの収益から引用しています。

6週時点で前作品である「から紅の恋歌」に比べ約10億以上の差をつけていることがわかります。

ちなみに3~4週で前週の立ち上がりを上回っている理由はGWによる集客増によるもので、その後の収益の伸びはゆっくりになる傾向はここ3作品に共通しています。

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ここで、2周目から6周目における「ゼロの執行人」の興行収入が「から紅の恋歌」の1.2倍程度で推移していること、この興行収入のグラフが日本国内のもののみということを加味すると、全世界での興行収入は82億程度で落ち着くのかなと考えています*2。国内におけるこの後の興行収入の推移予想を破線で補足したグラフが以下ですが、やはり80億程度に落ち着きそうですね。(ぶっちゃけると5週の時点で6~9週の予想推移を書いてみたのですが、6週での実測値とほぼ一致していたので大体こんなもんでしょう)

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前売券ブーストは発生するのか

「前売券は前売りで買っておき、初週は前売券を使わず別で買う」というよく考えられた猛者がいるという話を聞いたことがあります。実は興行収入的には前売券を事前に購入してもその時点で興行収入は発生せず、あくまで劇場に訪れたタイミングで収入にカウントされるという仕組みになっているそうです。

映画興行会社は劇場運営を行っており、劇場の入場料である興行収入が収益として計上されることとなります。興行収入は、当日券、前売券、優待券などのチケットが劇場に着券した時点で認識される仕組みになっており、それぞれのチケット単価に入場人数を乗じた金額で計算されます。

第2回:映画ビジネスの会計上の論点|映画ビジネス|新日本有限責任監査法人

 

仮に前売券を未だ抱えている方が多数いるようであれば、興行収入の微妙なブーストは掛かると考えてはいます。仮に現時点での来場者数のうち1%の人(約51,000人)が未だ前売券を1枚ずつ抱えている場合、約7,140万の興行収入の上乗せ*3が期待されます。前売券が通常のチケットより安価とは言え、思っているよりも上乗せされないものですね。まぁこの1%の人が前売券を10枚持っていて周りへの布教、更なる執行をなされるのであれば7億ちょっとの上乗せになるのですが、さすがにないよね……。

 

彼を100億の男にするには・・・・・・

今までと同一の興行収入の推移で100億の男になる場合、『から紅の恋歌の1.5倍程度の推移』である必要があります。この時は下の図のように、9周目で99億ちょっと、興行収入はほぼ100億に到達します。今回の「ゼロの執行人」では『から紅の恋歌の1.2倍程度の推移』のため、現状の推移のまま100億の男にするのは正直厳しいです。

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そうすると、通常公演以外のテコ入れが必要となってきそうです。既にやることが決まった「応援上映」とか「4DX」とか、あと爆音上映+ロングランとか……ってこれ全部ガルパンがやってたテコ入れだったわ。

とは言え、5月末に行われる応援上映からロングランに繋がるとどのくらい興行収入が伸びるのか、応援上映以外のテコ入れによりファンの方が楽しめる要素が増えること、そして興行収入の増加に繋がるといいですよね。

 

現状では100億の男になるのは厳しそうですが、ここからの頑張りで100億に近いところまで行くことは可能なのかなとこの盛り上がりを見るとそう感じます。

 

なぜ劇場版コナン作品の収益が伸びているのか

ここからは「ゼロの執行人」だけでなく名探偵コナン作品全体的な話。

劇場版名探偵コナンの興行収入は年々伸びており、特にここ3作品の収益増は目を見張るものがあります。よく見るグラフですが、現時点での収益グラフはこんな感じです。(ゼロの執行人については現時点での予想です)

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15作目である「沈黙の15分」以降、右肩上がりで興行収入が伸びています。20作目である「純黒の悪夢」以降の伸び方は異常であり、この急増については『お姉さま効果による興行収入の伸び』と言っても問題ないでしょう*4。この辺りの伸びがどういう影響のもとなのかを調べるために、過去作品の客単価を調べ、他作品と比べることで興行収入の伸びの理由を考えることにしました。

 

比較1~過去作品との客単価比較~

まずは過去作品との客単価比較です。客単価の計算式は以下の通りとします。

客単価 [円/人] = 興行収入[円] / 来場者数[人]

で、名探偵コナンの過去作品の客単価の推移は以下の通りです。17作品目である「絶海の探偵」以降、客単価が1,200円を超えており、ここ3作品では1,280円を上回っており、子供向けの作品から徐々に大人も楽しむ作品へ徐々にスイッチしていること、特にここ3作では客層の変化以上に客単価が伸びているように感じます。

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比較2~他作品との客単価比較~

2年前に自身で色々なアニメで客単価の計算をしたことがありますが、客単価が1,300円近くのアニメと言うとジブリ作品や「君の名は」など子供ではなく中高生、大人たちがよく観るアニメ作品が名を連ねます。あとは「アナと雪の女王」もそうですね。この作品は子供から大人まで、カップルでも楽しんでいたという点では名探偵コナンと近しい者を感じます。

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「君の名は。」や「名探偵コナン 純黒の悪夢」からみた、深夜アニメ劇場版の興行収入の限界 - たかみめも

 

一方で子供向けアニメである「ドラえもん」シリーズや「クレヨンしんちゃん」シリーズでは客単価が大体1,130円程度であり、名探偵コナンとの想定客層の違いも出ていることがわかります。*5 停滞していた頃の名探偵コナンでは客単価が1,150円程度と子供向けの水準だったのが、それがある一定の時期から大人まで楽しめる作品に推移してきたとみえます。

 

この2つの比較の結果から、以下のことが読み取れます。この2つが収益の伸びを担っていると感じたポイントをこの後に書いていきます。

 

・ 子供向けから大人向けにも繋がった 客層の変化

・ よりお金を落とす層へのアピール

 

客層の変化 ~子供だけでなく大人たちも~

名探偵コナンの映画作品においては、何より客層の変化が大きなキーと言えます。客層の変化については、先に示した客単価の推移でもある程度わかりますよね。

 

客層変化の傾向について2016年のGEM Standardが出している性年代別意欲度*6を表したものが以下です。意欲度は15歳から69歳における統計ではありますが、ここ6年で20代の男女の意欲度が徐々に増加していること、一方で10代の意欲度が維持されていることがわかります。10代で劇場版コナン作品を見ている層がそのまま歳を重ねても観続けているのではと推察出来ます。

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「名探偵コナン」シリーズの興行収入と性年代別意欲度(公開週) 「コナン」興収の謎とその補足 - GEM Standardより

 

また、上記グラフと相関するように「純黒の悪夢」では観客の約40%が20代の顧客であり、子供向けとは言えないことがよくわかっています。もちろん「純黒の悪夢」では既にお姉さま方の流入があってこその客層の変化も起因しているところはありますが、劇場版名探偵コナンの客層は徐々に成人済みの男女が多くを占めているのは様々な情報をみることで容易に理解できます。

 そして、観客の中心層となっているのは、まさにその19年間、「コナンとともに育ってきた」20代の観客なのである(調査結果によると約40%)。

シリーズ最高のヒットに向けて『名探偵コナン』ロケットスタート 実は支持層は20代の大人?|Real Sound|リアルサウンド 映画部

 

またインタビュー記事でも『子供向け作品だった作品が時を経て、放送当時子供だった大人たちも楽しめる作品となった』ことが語られています。

 

「コナン観るの、久しぶりだな」と足を運ぶ層にも届いた結果のヒットだった。

 

「迷いの数年を超えてからは『コナンファンは卒業しない』空気が一段と強まったような気がします。キャラクター自体が定着し、愛着を持って見守ってもらえるようになった。野球のルールを知っているから試合を見てても楽しい……という感じかな」

劇場版「名探偵コナン」はなぜヒットを連発できるのか?原作と映画の幸せな関係

 

一部のお姉さま方への訴求に成功しただけでは、ぶっちゃけ数億~十数億のブーストしか掛けられないのは他作品、コナン作品の収益増からわかります。この収益増は今までのファンを大切にした上で、新たなファン及びファン層を取り込むことに成功した結果でしょう。

 

応援執行公開による「リピーター層へのアピール」

5月31日に、5大都市(北海道・東京・名古屋・大阪・福岡)の限定5劇場で応援上映が決定しました。この応援上映ってやつは他の映画と同様、「その映画を複数回楽む人たちへのアピール」の面が強いです。もともと一般層への訴求の強かった名探偵コナンシリーズが応援上映をするという点から、よりお金を落とす層へのアピールも強め、より興行収入を得ようとしているようにみえます。

 

 

応援上映自体は数に限りがあるので、コレ自体が興行収入へ大幅な影響があるとは思えないですが、”応援上映をする”というところに今までのファン層以外へのアピールを強めているように感じます。こういう新規ファンへの対応も収益増に繋がっているのかなと感じています。こういった女性ファン層の特定男性への比類なき愛と貢ぎっぷりは男性オタではなかなか出てこないだろうなぁ。

 

ぶっちゃけ次の作品の興行収入が楽しみです

まだ「ゼロの執行人」が終わっていないのにこんな話をするのはどうかと思いますが、名探偵コナンシリーズの興行収入の推移が次回作でどういう動きを見せるのかというのは個人的に気になるところです。というのも「から紅の恋歌」の時にはお姉さま方のブーストが切れて興行収入減になるかと思っていたのですが、最終的には前作を超えましたし。ただ、次回作は安室透への貢ぎがなくなる分だけ興行収入が減りそうだなぁと野暮ったいことを考えていたり。

 

今作については「安室透は100億の男になるのか」という観点、そして今までの興行収入の推移で「名探偵コナンの興行収入を支えているのはどの層で、それがどの程度なのか」という観点であれこれ考えてみました。本当に100億の男になれるといいよね。

本当に最後まで内容についての話はしませんでしたが、ここではこういう話ということで。

 

*1:念のため2016年から2018年のドル円確認し、計算のため110円でならす形でよいと判断したため

*2:から紅の恋歌の海外での興行収入が3億ちょっとであり、同程度の興行収入を得られると仮定しています

*3:前売券は1枚1,400円で計算

*4:言い方については若干ぼかしています

*5:そもそも「名探偵コナン ゼロの執行人」と「クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ ~拉麺大乱~」は上映開始日がほぼ一緒で配給会社も一緒なので、ターゲットを分けていることが容易に想像できます。グラフとしてこの2つの作品を横並びに比較するのは正直頂けないです

*6:意欲度:全国に住む男女15歳から69歳の過去一年間に一本以上映画館で映画を観た人(映画参加者人口)の中で、各年の「コナン」を認知している、あるいは劇場で鑑賞したいと答えた割合